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曇天日和

どんてんびより

青鵲の恋【五】

「まったく、無精して酒持たずに捕まえたのがそもそもの間違いだったな。親父の言うことはちゃんと聞いとくもんだ」
拠点としている空き家に戻った男は、鳥籠を机の上に置いた。
ようやく目当てのものを手に入れた悦びで、目が爛々と怪しく輝く。
「さて、と」
鳥籠の中で蹲る鳥を、乱暴に引きずり出した。
「ヒュイ…ヒュ……」
「へへっ、動けねえだろ?」
鳥はか細い鳴き声を漏らすだけで、動くに動けなくなっていた。
男は満足げな笑みを浮かべ、懐から小刀を取り出す。
「ヒュイイッ!」
何をされるかわかった鳥は荒い声で鳴いたが、無駄な抵抗である。
酒を吸った体は弛緩し切っており、じたばたすることも許されなくなっていた。
男は嘲笑い、頭を押さえつけたうえで翼を広げる。
「よっと!」
生え揃った風切羽を、勢いよく切り落とした。
「ヒュィイイイ…ッ」
無惨に羽を散らされた鳥が、一際切ない鳴き声を上げる。
男にはそれすら耳に心地いい音でしかない。
床に散らばった羽を拾い集めては嗤った。この羽も立派な商品だからだ。
「あとは夜だな」
「ヒュイィッ」
男は鳥を引っ掴むと、寝台の上に投げ出した。
足首を麻縄で縛り上げてから、寝台の柵に括り付ける。
枕元には酒に浸した布を置いた。
「ヒゥ…」
酒の匂いに重ねて酔わされた鳥に、鳴く力はもうなかった。





万屋の女主人が買い出しから戻ると、隣の鍛冶屋が忙しく手を動かしていた。
普段ならいつものことと素通りするが、その手に握られているのは武器ではなかったため、目に留まった。
「まああんた、今日は随分綺麗なもの作ってるんだね」
古馴染の気安さから声をかけると、鍛冶屋はため息をつく。
「ほら、最近この辺で宝石や飾りモン売ってる派手な男がいるだろ?あいつの依頼だよ」
「ああ」
女主人にも覚えがあった。最近、近辺で不定期に店を出している行商だ。
異国の宝飾や羽飾りなど、見慣れない商品を扱う人間はこの許昌でも限られている。
値段設定が強気なため、野次馬は多くても買い手はあまりついていなかった、と女主人は記憶していた。
「今日の夜に売りたいそうだ」
鍛冶屋が手にしているのは、美しい青色をした羽だった。
細かい金属と組み合わせたうえで、耳飾りや首飾りにするのだという。
「あらあら、私も出来上がったらひとつ貰おうかしら」
「そうしてくれや。誰か買ってくれなきゃ、俺まで金が回ってこねえ」
「なんだい、お金貰ってないの?」
女主人は訝しむ。職人が前倒しで仕事を受けるなど、踏み倒しと隣り合わせの禁じ手だ。
「売った金から支払うつもりだと。信用はできねえが、なんせ凄い剣幕で押し付けられちまって…それに、確かに綺麗な羽だし、まあ売れるだろうと思ってな」
「確かにねぇ」
改めて、鍛冶屋の手元を覗き込む。
青い羽は、誰もが見惚れそうなほどの輝きに満ちていた。







日が暮れる頃、男は羽飾りに膨れた麻袋を抱えて、空き家に戻ってきた。
上機嫌で、奥の部屋へと入る。
寝台に横たわっている鳥が、淡く輝き始めていた。

「ヒュイ…イ」
少しずつ鳥の輪郭が崩れ落ち、次第に人の形を成していく。
夜となって初めて姿を現す美貌を、男はじっくりと眺めていた。

「いっ…ううっ……!」
人となった荀彧に、麻縄の痛みが襲いかかった。
鳥脚を縛り上げていた縄が、人間のものとなったそこをよりきつく戒める。
身じろぎをすると縄が肌に喰いこみ、血が滲んだ。
「よぉ、気分はどうだ?」
「いっ、嫌…」
にじり寄る男の存在に気付き、荀彧は頭を振った。
「嫌だとはなんだよ、まだなんもしてねぇのに、な?」
「嫌です…」
その手に別の麻縄が握られているのを見た荀彧は、なんとか逃れようと身をよじる。
しかし、ただでさえ酒が回った体は言うことを聞かず、また足を動かせば動かすほど縄は荀彧の白い肌に絡みついた。
「やめて、くださっ…いやっ!」
「無駄だ」
男は荀彧の両手を素早く取って、手首をあっという間に縛り上げた。
そのまま寝台頭上の欄干に括り付ける。
手も足も自由を奪われ、元より酒に酔わされた荀彧になす術はなかった。

「なぁに、すぐ気持ちよくしてやるよ」
「んっ、ああっ!?」
男の手が下穿きの中に入り込み、中心を握り込んだ。
突然与えられた大きな刺激に、荀彧はのけぞる。
「離し、て、ひぃっ…!」
こんな男に、無遠慮に触れられている。
心は嫌悪しているのに、荀彧の体は反応してしまう。
日中ずっと嗅がされ続けた酒のせいで、熱に浮かされた体は肌への刺激に耐えられなくなっていた。
「気持ちいいだろ?なぁ?」
「いやっ、だめ…離し、てっ、あ、あ、あぁああっ!!」
男の手の動きに翻弄され続けた体は、呆気なく限界を迎えた。

「は…うぅ…」
快感に揺らぐ荀彧の目が、燃える様な朱色に染まっていく。
茶色がかった黒髪は、夜空のような瑠璃色へと変化していった。
これこそが、男の求めていた姿だ。
「綺麗だなぁ、お前は」
その様は、神々しくもありまた妖艶さも湛えていた。
情動が高まった時でなければ見られぬが故の、蠱惑的な美。

かつて少年だった頃。
行商でもあり狩人でもあった父親は、この不思議な鳥を捕えることに執念を燃やしていた。
夜には類稀なる美を湛えた人間となる鳥を捕まえては、夜ごと犯していた父親の背中を思い出す。
犯された鳥は熱に溺れ、人でありながら人ならざる色―――鳥の姿の色に変わる。
その瞬間こそ、少年だった男に情欲というものを知らしめた。

「本番はここからだ。わかってるよな」
男は荀彧の装束に手をかけ、力任せに引き千切る。
「いやぁ…!」
露わにされた上半身を、男の手がいやらしく這う感覚に震える。
やがて男の手は、荀彧の白い脇をなぞった。
その瞬間、男の意図が分かった荀彧の顔から血の気が引く。
「っ…!!」
男の指は、荀彧の脇に生えた小さな白い羽を捉えていた。
全て知られている。自分たちの生態を、この男は何もかも知っている。
「それだけ、は…!」
必死に身じろぎをするが、何の抵抗にもならなかった。
「人の状態でこれを抜き取られたら、どうなるんだっけな?」
「お願い、ですっ、やめっ、やだ、ああぁーっ!!」
無情にも、力任せに脇の風切羽を抜かれる。荀彧の悲鳴が虚しく辺りに響いた。

「…これであんたは永遠にこのままだ。ようこそ、楽しい人の世界へ」
男は引き抜いた羽を荀彧の前にちらつかせる。
「あ、あぅ…」
体を痛み、心を絶望に支配された荀彧の目に、大粒の涙が浮かぶ。
「おっと、こっちまで抜くと商品価値が下がっちまうんだったな」
反対側の脇にも伸ばしかけたところで、男がその手を止める。
「この青い髪と、太陽の瞳…これこそが高く売れるんだからよ」
瑠璃色の髪の毛を弄りながら、男はせせら笑う。

人間となっても、両脇に一枚の風切羽が残されるということは、父親から学んでいた。
それを抜いてしまえば、二度と人に戻れないことも。
二枚どちらも抜くと、特有の色が抜け落ち、ただの人となってしまうことも。
「前に、親父が二枚抜いちまったことがあってな。それでも綺麗だったが値段は段違いよ。あんときゃ大損してたっけねぇ」
父親はひとしきり鳥を犯した後、全て人身売買の商品として売り捌いていた。
鳥の色を残した個体と、ただの個体では値段が倍は違った。
美しいだけでなく珍しさも併せ持ってこそ、商品の価値は高まるのだ。

「人の体になったからには不便がいっぱいだぜぇ?なんたってこの足」
男の手は、今度は荀彧の足を這った。
麻縄に戒められていない方のふくらはぎを持ち上げ、にやりと嗤う。
右手には既に小刀が握られていた。
「これが使い物にならなきゃ…意味がねぇからな!」
男の小刀が、荀彧の足の腱を一息に切り裂いた。
「いやあああぁっ!」
皮膚を裂かれる痛みと共に、ばちんと何かが弾ける音がした。
「あっ、あああっ…いた、いたいっ…!」
想像もしなかった激痛に、荀彧は打ち震えた。

「さて。最近は最初からよく喘いでくれる奴の方が喜ばれるんだ。かといって慣れ過ぎてても調教する甲斐がないってな。贅沢な客が増えたねぇ」
男は独りごちながら、荀彧の下穿きに手をかけて一気に取り払った。
「ちっとはブチこまれて善がれるようにしてやるよ。酒も回っていい感じだろう」
無骨な指が荀彧の臀部を撫で上げ、奥へと入り込む。
その薄気味悪さに耐えられず、必死で抗議の声を上げた。
「いや、やだ…っ」

「まあもっとも?アンタはもう、夏侯惇の旦那の味を知ってんだろ、なら話は早い」
「っな…」
いきなり夏侯惇の名前を出され、荀彧に激しい動揺が走る。
「あの人なかなか激しそうだもんなぁ。どうだったよ、あん?気持ちよかったかい?もう十分咥え込んだんだろ、ここでよ」
「ぅあああっ!?!?あぁ……っ!!」
男の指は、何の準備もなしに荀彧の秘部に突き立てられた。
突然の圧迫感と異物感に、荀彧の視界が歪み、声にならない悲鳴が奥で上がる。
初心な反応に驚いたらしく、男も目を見開いた。
「キツい…?おいおい、まさかお前初めてか?旦那に抱かれてねぇのかよ」
「っか、夏侯惇、どの、はっ…こんな、こと、なさ、らないっ…!」
その一瞬だけ、荀彧は怒りに任せて必死に叫ぶ。
夏侯惇まで低俗な目で見られたような気がして、我慢ならなかった。
だが男は目を瞬かせると、にぃっと下衆な笑いを浮かべて言い放った。
「へぇ…あんた抱かれるに値しなかったのか」
「っっ!?」
「惚れてんだろ、旦那に?でないとわざわざ森から許昌まで追っかけてきたりしねぇもんなぁ。っはははは、かわいそうに、せめて旦那に抱かれてたらいい思い出になったかな…?」
「やめっ…いや、嫌だぁ…!」
男の下卑た笑いが、荀彧の耳に突き刺さった。
耳を塞ぎたくてもその手は頭上で縛り上げられている。
何一つの抵抗も、今の荀彧には許されなかった。

「残念だ。あんたはこれから一生、汚い男たちの欲を浴びながら生きる。まあ慣れればすぐに気持ちよくなるから…これは、その第一歩だ」
男の指は再び、荀彧の秘所を抉り、奥へと蹂躙を始めた。
「はっ!あっ、ああっ!やめっ…ああっ!?」
初めは悲鳴だけを上げていた荀彧の声が、ある一点を触られた瞬間に変わった。
それを見逃さず、男は徹底的にその部分を責めていく。
「ここをこうされると気持ちいいんだろ?ほら」
「あっ、う、ん……ああっ、だめぇっ!」
「いいねぇ。どこまで粘れるかな」
快楽に耐えようともがく荀彧の姿に、男の更なる嗜虐心が煽られる。
空いている手を荀彧の髪に伸ばし、赤い髪紐を取り払った。
瑠璃色の髪が、ばさりと枕元に広がる。
「っあ!?なにっ・・?」
「手っ取り早く理性を壊すにはこれが一番いい。さあ、どこまで耐えられるかねぇ」
「えっ、あっ…!?あ、やめてくださいっ!」
刺激を与えられて再び芯を持ち始めたそれを、男は奪い取った髪紐で括ってしまった。
「いやぁっ、解いてくださっ、あ、あっ!」
正確に弱い所を引っ掻かれ、確実に快楽に蝕まれていく。
しかしそれを外へと逃がすこともできず、荀彧は逃れられない苦痛にもがく。
「あうっ!いや、あぁあっ!」
「ふふっ、本当に顔がいいな。俺はとびきりの当たりを引いたらしい」
どんなに泣き濡れても、どんなに苦痛に喘いでも。
むしろ情欲に塗れるほど輝きを増していくように、男の目には映った。
「ひあっ、やぁっ!!やめ…たすけ、てっ、あぁんっ!!」
「気持ちいいだろ…いや、辛いだけかな?」
秘部を煽る手は止めないまま、男は荀彧の芯を握り込む。
ただでさえ張りつめたそこに触れられてしまい、荀彧は泣き喚いた。
「いやぁあっ!ほどい、て、あああっ!!」
「お願いがなってねぇよ。こういう時何て言うか教えてやる」
男は荀彧の耳元に顔を近づけ、嗤って囁く。
「『ご主人様、この淫乱で哀れな私をイかせてください』ってな」
「っく…そん、なっ…あぁ……あ!」
誇りを粉々に打ち砕く台詞を強要され、泣きながら首を振る。
そんな荀彧を見て、男は尚も前と後ろから煽って追い詰めていく。
「ほら言えよ。限界だろ?」
「もう、やめ、ああああっ!!」
先端に爪を突き立てられ、目の前が真っ白になった。

「おね、がっ…」
「お願い?なんだ?」
底意地の悪い笑みを浮かべる男の目に、震える唇が映る。
「ごしゅじん、さま……いか、せ…て……」
「…まあ、初めてに免じてやる」
まだ羞恥を伴うたどたどしい声色だが、まずは満足だった。
荀彧を苛む髪紐を、男が取り払う。
「あ、あああああっ…!!」
散々我慢させられた荀彧は、それだけで精を吐き出した。
行き場を失っていた欲の波が流れ落ちる。
「おーおー。まだ出そうだな」
「ひゃうっ、だめぇ、あ、ああ!!」
尚も男が握り込んで擦り上げると、止まりかけていた蜜が再び迸った。
「はは、いいぞいいぞ」
男はいよいよ、荀彧の足を掴んで開かせた。
解した秘部に、自分の怒張したものを押し当てる。
「あぁっ…?」
「さぁ。ありがたく受け取りな…っ!」
「あ、やめ、うあああっ!!!」
一気に貫かれ、荀彧の全身が戦慄いた。
「っつ…上等だ。こりゃあ自信持って高く売り付けられるぜ」
行為に慣れていないそこはまだまだ狭い。
だが、絡みついてくる内側の感触は男にとっては極上のものだった。
気持ちよさに任せて、男は力任せに荀彧を抉る。
「いや、だっ、抜いてくださっ・・あああぁんっ!」
無意識に逃げようとする腰を掴まれ、奥深くまでねじ込まれた。
刺激を受け続けた弱い部分を掠められ、荀彧は一際高い声で咽び泣く。
「ひああっっ!あ、あぅっ、やぁ、いやぁっ…!」
「っ…あとは、飼い主に調教してもらえよ!」
「あっ、あ、いや、あ、あぁあああんっ!!」
濁流となった男の熱が押し寄せる。
それを受け止め切れないまま、限界を迎えた荀彧は意識を手放した。







2018/04/20

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