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曇天日和

どんてんびより

『荀彧』

耳元で優しく名前を囁かれたと思った瞬間、首筋に舌が宛がわれた。
「っひ、あぁっ!」
死角から与えられた刺激に、荀彧は天を仰いだ。
その艶めかしい反応を楽しみながら、ケルピーは腰を突き動かす。
「は…あ、っ!あぅ、っ…」
静まり返った夜の中、律動で擦れる音と荀彧の儚い喘ぎだけが響く。
月光に浮かぶは、人と、人ならざる者同士の交わり。
本来なら、許されるべき行為ではない。あってはならないことなのに。
「はっ……んっ…あ、ああーっ!」
何故。どうして、こんなにも。満ち足りた思いを得られてしまうのだろうか。











「郭嘉殿…?」
幕舎へと戻る途中で、暗闇より姿を表した人と目が合った。
一瞬だけ真顔になった彼は、しかしすぐに柔和な笑みを浮かべて近づいてくる。
目の前に来たその体から酒の匂いを感じ取ったところで、荀彧は嘆息した。
「…また、秀吉殿と遊びに出掛けられたのですか?」
曹操からの命を受け、連合軍に郭嘉を引き入れて暫く経つ。
しかし未だに、夜の軍議にだけは参加しようとしない。日が陰ると雲隠れしたようにいなくなる。
そして月が高くなる頃、ひょっこりと本陣へ戻ってくるのだ。
「つい、酒も話も弾んでしまってね」
悪びれもせずに微笑む郭嘉を見て、更に頭の痛い思いがした。
彼を説得するのは詮なきこととわかっていてもつい、小言を言いたくなってしまう。
「秀吉殿と誼を結ばれるのは結構なことですが、どうか無理だけは」
「荀彧殿だって、あの方と酒を酌み交わす楽しさは、よく御存知の筈では?」
「……」
荀彧もまた、郭嘉が今まで一緒にいた男――豊臣秀吉とは、何度も宴を共にした間柄である。
連合軍に迎え入れられた直後に声を掛けられ、以来何かと酒の席に誘われた。
巧みな話術と繊細な気配りで、あれよあれよと人心を引きつける。『人たらし』の様は鮮やかで、傍で見ているだけでも心地よかった。
「…確かに、郭嘉殿の仰る通りではありますが」
才人の才人たる様を見届けつつ、忌憚なく言葉を交わしながら飲む酒は、確かに上等だ。
まして、やはり類稀なる才を持ち、よく酒を嗜む郭嘉は秀吉にとって格好の人物だろうし、また郭嘉にとっても願ってもない相手だろう。
「オーディン軍の脅威は底が知れません。今、郭嘉殿にもしものことがあったらと思うと…」
荀彧は、郭嘉の袖口から覗く白い手に視線を落とした。
ようやくこの世界で会うことが叶い、連合軍本陣へと迎え入れた日の夜。
酒杯を傾けてきた彼の手は、その爽やかな美貌にそぐわぬほど痩せこけ、節くれ立っていた。
元の世界にいる時より薄々感づいてはいたが、改めて見せつけられれば胸は粟立つ。

「…貴方こそ、人に説教できるのかい?そんなに無理をして」
それまでのにこやかさを一転させて、郭嘉が眉を顰めた。
いつになく真剣な眼差しで見つめ返されてしまい、思わずたじろいでしまう。
「無理…ですか?あっ…」
戸惑っていた隙に、手首を掴まれた。
そのまま、郭嘉の目線まで手が引き寄せられる。
「…こんなに、白くなってしまって。私のことを言えた義理ではないのでは?」
思ってもみなかった言葉が飛び出した。尚も郭嘉は続けてくる。
「綺麗だけど、あまりにも…透き通っている。水のようだ」
水のよう。その台詞は、酷く荀彧の心に突き刺さった。
荀彧も改めて、郭嘉に捕らわれている己が手を見つめた。
「あ…!」
郭嘉がそう表現した意味を理解し、そして茫然となる。
肌の色が濃い方ではない。しかし少なくとも、郭嘉よりは血色がいいという自覚はあった。
だが、月明かりに見る今の自分と郭嘉の手の色は、境目が見えないほどに白い。
「荀彧殿。近頃、ほとんど食事を取っていないそうだね」
探りを入れるような視線と共に、郭嘉は宴席で上がった話題をぶつけてきた。
「秀吉殿から聞いたんだ。奥方がとても心配していると言っていたよ」
「それ、は……」
喉の奥、そして胸の内が、ぎしりと痛む心地がした。
何も言い返せないまま微かに震える様を、郭嘉はじっと見つめてくる。
「思ったより、やつれてはいないようだけど。こんな調子では貴方の方こそ…」
「すみませんっ」
理性より先に感情が、そして体が動いていた。
郭嘉の手を振りほどき、すれ違いざまに走り抜ける。
「あっ、荀彧殿!?」
驚いた郭嘉の声に振り向くことなく、本陣の入り口へ駆けた。







「はぁっ、はぁ、は……っ」
何も考えず、ひたに走って。気づけば見慣れた光景を前にしていた。
鏡のごとく平らに凪いだ、美しき湖。
結局、ここに来てしまうのか。ここを選んでしまうのか、自分の足は。
「っ……」
吸い寄せられるように、荀彧は湖の汀まで歩いた。
恐る恐る、水面を覗き込む。途方に暮れた自分の顔が映り込んだ。
いつの間にか、頬からは色が失せていた。
「……あ、あ」
足の力が抜けるまま、がっくりと膝をつく。
何も、気がつかなかった。こんなにも見た目からして変わっていたなど。

郭嘉の指摘は事実だ。
料理自慢の者らによる陣中飯は、連合軍にとって貴重な安らぎ。荀彧も感謝しつつ、その恩恵に預かっていた。
誰からも美味だと評判の味を感じにくくなったのは、最近のこと。食欲自体も薄くなっていった。
初めこそ、体調が思わしくないのだと思った。しかし腹が空くという感覚は、何日経っても戻ってこない。
ならば体に悪影響が出てしかるべきなのに、特に調子は変わらなかった。
「……!」
急に喉の渇きを感じ、目の前の湖に手を差し入れた。
掬い取った水は、一点の濁りもなく澄んでいる。口を近づけ、一気に飲み干した。
「はあ……」
喉の奥、そして体中が潤されていく心地がする。何をしている時よりも、精神が落ち着く。
こうして日々口にしているといえば、今となっては水だけしかない。
水さえあれば平気になっていた。その異常さをわかっていながら、今まで目を背けていた。

「私、はっ……」
どうかしているのだ。水だけで満たされるなど。
白くなってしまった肌、一向に湧かない食欲。そして水のみ受け付ける体。
自分の体は変わり始めている。少しずつ、想像もし得なかった方へと。
それは、つまり。



『荀彧』
背後から、名を呼ばれる。それだけで息が詰まる。
「…ケルピー殿」
振り向いたそこに、自分を縛る主が佇む。
金属質の瞳が、いつものように静かに見下ろしてきた。
『今宵も、汝をいただく』
当たり前のようにケルピーの口吻が首元に寄せられ、生温い舌先が頬を撫でた。
快感の中、ふいに芽生えた恐怖が背筋を凍らせる。
普段ならこのまま肌を重ね、呑み込まれていくだけ。それが贄となった自分の役目。
でも、この関係を続けていけば、自分は。
「お、お待ち、を……どうか今夜はっ」
咄嗟にケルピーの顔を押し戻し、その場から離れようと走り出した。
「あ…っ!?」
しかし、少し行ったところで、何かに押し留められた。
柔らかく弾力を伴う感触が、荀彧を跳ね返す。
「こ、これ、は…?」
目の前には、湖畔の奥手の森。そして本陣へと続く道が見えている。
なのに手を伸ばしても、途中でつっかえてしまい、先へと向かえない。
当たりこそ柔いが、決して破ることのできない透明な壁が、そこに存在していた。



「荀彧殿っ…」
森の向こうから、誰かがこちらへと駆けてくる。
その影の主を認識した瞬間、思わず荀彧は声に出して名を呼んでいた。
「郭嘉殿!」
だが、荀彧はすぐに異変に気づいた。姿は確実に近づいてくるのに、目が、合わない。
完全に視界に捉えられる距離まで来て尚、郭嘉は方々に視線をやった。
「荀彧殿…いったい、どちらまで……」
目の前にいるのに。その目に、自分は映っていない。
「か、郭嘉殿。私は、ここです!ここにっ…」
何度も掌を眼前へ打ちつけながら、荀彧は郭嘉を呼んだ。それに対する反応はない。
『無駄だ。奴に汝の姿は見えていない。声も聞こえていない』
「なっ…」
無情な現実が、背後から突き付けられる。
その言葉を証明するように、郭嘉はついに荀彧の方を見ることはなかった。
今一度周囲を見渡し、足元を注意深く見てから、ため息をつく。
「…まいったな。足跡もない」
湖畔の砂地には、郭嘉一人分の足跡しか残っていない。荀彧の物は既に消されていた。
「困らせるつもりは、なかったのだけれど……」
寂しげに呟いたかと思うと、郭嘉は踵を返した。
少しずつ遠ざかっていく背を、荀彧は沈痛な面持ちで見送るしかなかった。
「郭嘉殿…っ……」
その手を振り払って逃げ出した自分を、追ってきてくれたのに。
何も言えないまま終わってしまった。なんて酷い真似をしてしまったのだろう。
無意識に湖へ来ることを選んでしまったばかりに。



『荀彧』
再び名を呼んだその声に、微かな苛立ちが混じっていた。
「っあ、んっ!」
あっという間に水色のたてがみが腕を覆い、そして腰に絡みつく。
後ろへと強引に引っ張り倒され、その勢いで仰け反った。
露わになった首筋に、遠慮なく舌が宛がわれる。
「や、っ…あ……!」
装束の合わせ目から割って入ってくる生温さに、震えながら身を捩らせた。
「っ…?」
しかし、そこでケルピーの愛撫はぴたりと止んだ。刹那、耳元で低く囁かれる。
『…何を怯えている?』
やはり、ほんの僅かではあるが棘を含んだ声だった。
『もう幾度、我に抱かれていると思っている。今更何を恐れ拒む』
四肢を縛めたたてがみからも感じ取れる、荀彧の強張り。
戸惑いと恥じらいからくる健気なものではないことは、ケルピーにも伝わっていた。何に恐れをなしているのかも。
だからこそ、主として無慈悲な一言を言い放った。

『人でなくなるのが恐ろしいか?』

「―――――!!」
体に起きている異変に対する、すべての答え。
時が止まったかと思うほど、ぞっとする静寂が荀彧を囲い取る。
『悪いが、汝は最早我の贄以外の何物でもない。後戻りはできぬぞ』
ケルピーは淡々と告げた。
「で…ですがっ、私は神々との戦が終結したならば」
『この戦が終わったとて、離しはせぬ』
悲痛さを伴う荀彧の言葉を遮り、ケルピーは言い切った。
『汝は我の世界に連れ帰る。そのつもりでいろ』
「それ、は……っ」
そこで初めて、荀彧は己の認識の甘さを思い知る。
ケルピーと自分は、住む世界も種族も異なる。強引に創り出された異世界で、偶然に相見えただけに過ぎない。
そしてケルピーは、この戦に対し霊獣としての力を干渉させるべく、自分を見初めて贄にした筈。
だからこそ、戦いが終わるまでの繋がりだと、どこかで思っていた。オーディンとの戦に決着をつけ、それぞれの世界の理を取り戻した時点で、切れる縁だと。
道ならぬ関係もいつかは清算される時が来る。かつて遠呂智との戦いに勝利した後、すべての記憶を手放した上で元の世界へ帰還したように。そう、疑っていなかった。
「っ…」
今一度、荀彧は自分の手を見やった。郭嘉に「水のよう」と表現された、透き通る白さの手。
これは贄となった証。そしてケルピーの、我が物にするという明確な意志。
このままでは本当に、自分は―――。

「…できません」
荀彧は絞り出すような声で、しかしはっきりと口にした。
意を決して、自分を捕らえる主の顔を。無機質な目を見上げた。
「今の私は確かに、貴方の贄。その責務は負いましょう。ですが…私はやはり、曹操殿にお仕えする身です」
世に新たな理を敷くと言い、覇道を歩むと決めた曹操という傑物。
あの方であれば、乱世を収束に導ける。彼の人に英雄の器を見出したから今の自分がある。
「殿をお支えし、世の乱れを平らかにする…それが私の役目、そして願いです。それを放り出してまで、貴方と共に行くことはできません」
荀彧の切々とした訴えに、ケルピーは黙って聞き入った。
しかしその目がぎらりと光を帯びた瞬間、冷たい台詞が返ってくる。
『曹操とやらには、汝以外にも軍師がいる。先程の男もそうだろう』
「っ……!」
『汝一人欠けたとて、汝の主は我が道を歩む男だと見受けたが…違うか』
残酷な問いをするケルピーの脳裏には、戦場で見た曹操の姿が映っていた。
品格ある佇まいに、堂々とした戦ぶり。時には冷酷な判断も厭わぬ決然とした態度。確かに、荀彧がこれと見定めるだけの男ではある。
そうであるが故に。支えの一本二本失おうとも、己が意志を貫く頑強さもあると直感した。
「仰る…通りです」
曹操の御為、持てる才の限りを尽くしている自覚はある。信を得ているという自負もある。
しかし自分がいなかったとて、歩みを止めるようなことないだろう。
曹操の傍らには、夏侯惇をはじめとした股肱の猛将、郭嘉や賈詡といった優れた智者、才ある人材で溢れている。曹操を取り巻く布陣に隙はない。
「……だと、しても」
荀彧は首を振った。
身を案じてくれた郭嘉の顔。曹操軍の皆の顔。そして曹操の顔が、次々に思い浮かぶ。
乱世の終焉を目指し、蒼き覇道の名の下に集った精鋭たち。そこに、自分の望んだ場所がある。
己の責務や、曹操本人の都合ではなく、ただ、意志として。
「私は、殿を支えたいのです。殿によって乱世が終わる様を、私は見たい…」

『…生意気な』
ざわっと、たてがみが揺れる音がした。言いようのない緊張感が走る。
明らかなる怒りを前にしても、荀彧は引けなかった。
「っ、申し訳ありません。ですがこれが私の、偽らざる…!」
『黙れっ』
「あっ!痛っ…!!」
それまでやんわりと包んでいたたてがみがきつく巻きつき、荀彧の動きを封じた。
『汝の意志など構わぬ。汝は我の贄』
「ケルピー殿っ…あっ!」
足腰がふわりと宙に浮き、たてがみに抱え込まれてしまう。
ケルピーは荀彧を抱えたまま、湖に向かった。
水際までやってくると、荀彧の体は湖面へと投げ出された。
「あぅっ…!」
ばしゃり、と水飛沫が飛び散る。下半身はずぶ濡れになってしまった。
その衝撃に驚いている暇もなく、覚えのある違和感が荀彧の体に這い寄り、包み上げる。
「あ、ああ…っ!やぁっ!」
鈍重な粘膜と化した水が、下半身、そして腕を絡め取った。
身動きが取れずもがく荀彧を見下しながら、ケルピーは顔を寄せてきた。
『聞き分けの悪い贄には、仕置きだ』
黄金色の目が、沸々と滾らせた怒りで揺らめくのがわかる。
「お願い、ですっ…怒りを、お鎮めください…!」
荀彧は必死で懇願したが、ケルピーは睨み返した。
『ならば、我と共に来い』
「っ、それ、は…!私にはっ…」
ケルピーが望みしは、従うという言葉それのみ。
しかしそれだけは、どうしても口から出てこない。
言い淀む荀彧に痺れを切らし、唸るような声と共にケルピーは詰め寄った。
『…もうよい。ならば真に教えてやろう。汝の立場を』





ケルピーの舌が、容赦なく荀彧の装束を合わせ目から剥いだ。
「あ…っ!おやめ、くださっ…やぁっ!」
常よりも手荒にはだけさせられ、装束は粘膜が器用にも取り払ってしまう。
晒された裸に、有無を言わさず粘膜が這いずってきた。
「っは、ああっ!あっ……んっ!」
胸元全体を覆い込んだ粘膜が、荀彧の胸を激しく揉みしだいた。
蕾は執拗なまでに摘まみ上げられ、転がされ。このような乱暴な扱いは初めてだった。
羞恥と恐怖に支配され、無理矢理な形で与えられる刺激に、荀彧は涙を滲ませる。
「お、お許し、を……いや、ぁっ…!?あぁ…」
ふいに、胸にじくりとした痛みが走った。それに伴い、快楽とは違う熱が胸に迫ってくる。
初めて肌に感じる感覚に気づいたその時、急に粘膜が退いた。
『…見ろ、荀彧。汝の体を』
怒りに満ちていた先程とは打って変わって、どこか愉快そうな声が浴びせられる。
荀彧は恐る恐る目を開け、自身の胸元に視線をやった。
「え……っ!?」
見間違いだと思った。見間違いであってほしかった。
しかし何度見ても、そこには、あるはずのないものができていた。
平たい筈の胸が。ほどよい曲線を描いた膨らみを湛えている。
「な…ぜっ…!?」
己の身に起きた変化を、茫然とした面持ちで眺める。
そんな荀彧の反応を楽しむように、ケルピーはちろりと舌を覗かせた。
『ああ…いいぞ』
「っひ!ぁあ…っ!!」
ケルピーの舌が、丸みを帯びた荀彧の胸元を這いずった。
膨らみの中心部で主張する蕾に、舌が纏ろう。強い快感が荀彧の体を駆け巡った。
「あ、ああっ……!ケルピー、どの…っ……ひぅっ」
舌で弄ぶに飽き足らず、ケルピーはその細い口吻で荀彧の胸に吸い付いた。
痛みと共に、何かが吸い上げられていく。やがて快感の方が勝り始めた。
「はぁっ…あ、うっ…いや、です……あ、ああっ!」
胸の奥で、熱が弾ける心地がした。
「あ、あっ…はぅ……」
精を解放するには至らない。だからこそ、もどかしい快楽となって体を苛む。
股の中心は既に形を成し、蜜を零しながら震えていた。
『慌てるな。こちらの蜜も後で味わってやる』
もしも人の姿であったら、今のケルピーはとても悪い笑顔を浮かべているだろう。
そんなことが容易に想像つくような、笑い声が上がった。

荀彧の下半身を縛めていた粘膜が、ゆっくりと蠢きながら股に滑り込む。
「やっ…な、に……ああぁっ!あ…!」
粘膜が押し上げてきたのは、後孔とは違う場所だった。
強く圧のかかるそこにはじんわりとした熱が集まり、柔らかく解されていく。
「っひ!?」
じゅく、と鈍い水音がした。
また、経験したことのない感覚だ。肌そのものが溶かされていくような。
皮膚しかない筈の場所が熱くなり、そして。
「はぁ…あ、ああ……!うあっ!?」
粘膜が、ついに中へと侵入してきたのがわかった。
すぐに奥まで辿り着き、そこにある空間を押し広げるように広がっていく。
「っひ、あ……いや、だ…いや、あああ!」
膨らみを持ってしまった胸。有り得ない場所を穿たれている感覚。
今自分が受けている仕打ちは、最早ただの強引なまぐわいではない。
この場で、体が作り変えられているのだ。更にケルピーを受け入れやすいものへと。
「おねがっ…もう、やめて…くださっ……!」
人でなくなってしまう恐怖を前に、荀彧は泣き叫びながら訴える。
しかし、ケルピーに届くことはない。
『…もう汝は人の子ではない。我の贄だ』
「ひあぁっ!やぁあ!!」
ケルピーの口が、一気に荀彧の花芯を根元まで咥え込んだ。
「あ、んっ!あ、やっ…あ…ああ……あぁん!」
滑った舌先が先端を突き、温かな感触がきつく扱き上げてくる。
人の身にはとうに過ぎた快楽だった。
迫る絶頂を前に、悲鳴は今度こそ嬌声へと変わり果てる。
「あ、ああ、あ―――――っ!!」
仰け反りながら、荀彧は蜜を放った。

『…荀彧』
吐き出された精を啜り終えると、ケルピーはチッと舌を鳴らした。
その合図で、荀彧の内を侵食していた粘膜が収縮を始め、体外へと出てくる。
「んぁ……う…っ」
吐精の余韻を彷徨う姿は、ケルピーの支配欲を強烈に刺激した。
ついに、この時が来た。この美しき贄を、永遠に傍らに置く時が。
そのために。この時のために、少しずつ追い込み、絡め取った。逃げ出せぬように。
『仕上げだ』
粘膜がまたも荀彧の体を包み込み、ゆるりと動かした。
水際にうつ伏せになるように寝かせると、今度は腹の内へと潜り込む。
「あ………」
理性を砕かれた荀彧に、抗う力は残されていなかった。
粘膜にされるがまま、腰を持ち上げられた。
『行くぞ』
ケルピーの怒張が、たった今作り上げられた窪みへと宛がわれた。
「あ、ああ…あぁあ…や、あ…っ!」
鋭く猛った雄は、静かに荀彧を貫いていく。
こじ開けられた道は、僅かに残る粘膜のせいか、滑らかにケルピーを受け入れた。
痛みを感じてないとわかるや、ケルピーは腰を動かし始めた。
「あうっ!あ、んんっ……あ、あぁっ、あぁ、あんっ!」
内壁を擦られるたび、蕩けた喘ぎが上がり、腰が揺れ動く。
ケルピーにもそれが刺激となって伝わり、中の雄は歓喜に沸いた。
『荀彧…我が、番』
耳元でケルピーが甘く囁く。その瞬間に、荀彧の中で昂りが解き放たれた。
「あ、あぁ……――っ!!」
胎の奥が、熱で浸されていく。
何も、考えられなかった。悦びがすべてを、満たした。











意識を手放したまま、荀彧は肢体を水際に横たえていた。
傍らにはケルピーが腰を下ろし、ぴたりと寄り添う。その尾が時折、肌を優しく撫でた。
『…荀彧』
ケルピーは、口吻を荀彧の腹へと押し当てた。

とくり、とくり。

小さな鼓動を聞き取り、満足そうに頬をすり寄せる。
ここに宿るは、彼が番となった証。同じ世界へと繋ぎ止める縁。
完全にこの手に収めた。その愉悦が、心を躍らせる。
口吻は嫋やかな線を描く胸の方へと這い寄り、尖りに舌が伸ばされた。
「ん……ぁっ…」
身じろぎと共に、か細い喘ぎがこぼれる。
火照りの残るその場所からは、柔らかな香りが漂った。

『永遠に我の物だ、荀彧』

汝こそ、我が唯一無二の番。




2018/11/30

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