隷属の華【十六】
「すぐに湯を沸かしていただけますか。それから清潔な布を。薬湯もお作りしたいのですが」「は、はい。お待ちください」
矢継ぎ早に下される貂蝉の指示に、荀攸はまごつきながら従った。
棚からさらし布を取り出して貂蝉に渡してから、台所へと駆け込む。
火を熾したところに、勝手口から張遼が桶を持って入ってきた。
「井戸水をお持ちした」
「申し訳ありません、感謝いたします」
受け取った桶の水を半分鍋へと流し込み、竈に置いた。残りの水はすぐに貂蝉の元へ届ける。
郭汜に取り押さえられた時は絶望的と思っていたが、荀爽の邸宅はさして踏み荒らされていなかった。
金品はいくつか盗まれた痕跡があったが、元々荀爽は蓄財をする方ではない。金目の物はないとすぐに諦めたのだろう。
荀爽が遺した書物や衣服、干していた薬草などは、幸いにもそのままになっていた。
「お待たせしました」
湯が入った鍋を抱えて、寝室に入った。
既に水で粗方血の汚れを拭われた荀彧が、ぐったりと横たわっている。
一見綺麗に見えるその体についた無数の傷痕が、彼の受けた仕打ちの惨さを示していた。
「ありがとうございます」
貂蝉は早速、新しいさらし布を湯へ浸した。
しっかりと絞ったそれで、荀彧の体に触れる。
「あっ…うぅ…」
肌に伝わるじんわりとした温かさに、荀彧は無意識ながら喘いだ。
「ひぃっ…や、ぁっ…おゆるし、を…」
か細い声でうわ言を口にする。
夢の中の彼はまだ、董卓に囚われているのか。
「あ、ああっ…いや、っ…やぁあっ!」
意志とは関係なく下半身が揺らぎ、その中心が形を確かにしていくのが見えた。
「荀彧様…」
以前よりも更に敏感な肌にさせられていることを痛感し、貂蝉は表情を曇らせる。
行為のたびに媚薬を盛られ、体を捧ぐことばかり強要されてきた身。
離れている間に、更なる凌辱を受けていたであろうことも想像に難くない。
この高潔な人にとってどんなに耐え難く、屈辱的なことだっただろう。
せめて眠りについているうちに苦しみから解放させようと、さらし布を下半身へと滑り落とした。
「っ、俺がやります!」
荀攸は性急に、貂蝉の手にしていた布を奪い取った。
「すみません…俺に、やらせてください…」
荀攸自身、荀彧の裸を目にして、いたたまれない気持ちで一杯だった。
まして淫靡に乱れ、しかも麗しい女性の手で悶える姿など、あまりにも見ていられなかった。
「お願いしますっ…」
震えながら懇願する荀攸に、貂蝉は決して困惑や憐憫の眼差しを向けなかった。
ただ静かに頷いた上で、寝台の傍から立ち上がる。
「…はい。かしこまりました」
貂蝉が出ていき、寝室には二人だけが残された。
「は、あ…ああ…あぁっ」
悲しく、そして熱を孕んだ荀彧の吐息が、部屋に響いた。
望まぬ快楽を植え付けられ、自身を嬲り尽くした暴君の影に惑い苦しむ。
その体には真新しい傷だけでなく、歯型や鬱血といった、時の経った無体の痕が残っていた。
「っぐ」
湧き起こるのは董卓への怒り。そして、己への失望。
清爽な品格を備えた叔父を、このような姿に変えてしまったのは自分だ。
「っ…」
荀攸は手にしたさらし布で、そっと荀彧の体に触れた。
傷つき、疲れ切った体を温め、出来る限り優しく肌を拭いていく。
その身に受けた屈辱の記憶を少しでも、洗い清めるつもりで。
「あぁっ…っ、あ!」
時折洩れる悲痛な喘ぎが、荀攸の心の臓を抉ってくる。
股からは花芯がその頭を擡げ、熱の解放を求めて切なく震えた。
「申し訳、ありませんっ」
荀攸は意を決して、さらし布を下半身へと覆い被せた。
熱の籠ったその中心を、やんわりと握り込む。
「やぁあっ…!」
金切り声にも近い嬌声が上がった。
「―――!!」
彼を董卓という毒沼から、身も心も全て救い出したい。それが純粋なる願い。
それでも、耳に入ってくる声が、途方もない罪悪感を荀攸に与える。
結局自分も、彼を冒涜しているに過ぎない。そんな思いが全身を駆け巡っていく。
「ぐ、うっ…」
荀攸は奥歯を噛み締めながら、荀彧の急所を扱き上げた。
壊れ物を扱うような心地で、ゆっくりと、丁寧に。
「っは…あ、あっ…あぅ…」
次第に、荀彧の声に甘い響きが混じるようになった。
さらし布に覆い隠された芯が、手の中で一際硬くなる。
「…お許しください」
荀攸は、指の力を少しだけ強めながら扱いた。
「っあ、あ、あ、あぁっ…!」
指先に導かれるまま、体を震わせながら荀彧は昂りを手放す。布の中に、熱い奔流が迸るのを感じた。
零さないよう、布を素早く引き抜くようにしてすべてを拭い去る。
「っ…あ…はぁ…」
荒い息が少しずつ収まると共に、荀彧の顔の火照りも次第に和らいでいく。
やがてまた、静寂が部屋を包み込んだ。何事もなかったかのように。
「文若、殿」
かすれた声で、荀攸はその名を呼んだ。
淡く優しい月明かりが、眠る荀彧を照らし出していく。
穏やかさを取り戻した表情は、ただひたすらに美しかった。
「これからどうなさるおつもりか」
張遼は、井戸端で腰を下ろす呂布に向かって言った。
呂布の視線は、水桶に顔を突っ込んでいる赤兎馬に注がれている。
「俺は俺の道を行く」
短く告げられた言葉に対し、張遼もまた短く返事をする。
「承知した。ご同道させていただきたく」
「好きにしろ」
それきり、呂布は何も言わなかった。
暫し、赤兎馬が水をがぶがぶと飲む音だけが辺りに反響した。
「ところで、貂蝉殿はいかがいたします」
月が真南に近くなる頃、再び張遼が声をかけた。
貂蝉、と出されたその一瞬、呂布の眉がわずかに動く。
反応を示したのを確認してから、張遼は言葉を続けた。
「失礼を承知で申し上げます。恐らく貂蝉殿の目的は、董卓殿の暗殺…それが成し遂げられた今となっては」
自分達につき従う理由は、残されていないだろう。
呂布が貂蝉を想っていることは知っている。故に、決定的なすれ違いがあるように思えた。
「張遼」
「はっ」
出過ぎた真似をしてしまったと、張遼は内心後悔した。
頭を垂れ、粛々と怒りの言葉を待つ。
「俺は俺の道を行くと言った」
今までに聞いたことのない声だった。思わず張遼は呂布の顔を見つめる。
相変わらず赤兎馬へと向けられているその横顔には、既に悟ったような色があった。
「貂蝉にも、貂蝉の道がある」
「ぎゃああああああああああああ!?」
玉座の間に絶叫が響いた。
血で血を洗うような惨状を前に、郭汜は吐き気を覚えながら後退る。
「う、嘘だろ…嘘だろぉ…なんてことだよ…!」
入り口に転がる、背中から真っ二つにされた李儒の亡骸。
元は全員生きていた兵士とは思えない、大量の首なし死体。
そして赤黒く染まった玉座には、天を仰いだまま死に絶えた董卓がいた。
腹からは、今も血が垂れ流されたままになっている。
「今頃何をしに来た」
玉座の裏から、ぬらりと人影が這い出た。
「げぇっ、王允…!?」
大斧を握り締めながら現れた男の姿を見て、郭汜は更に仰天する。
「あ、あんたがやったの、かよ…ひぃいいっ」
こんな辛気臭い男が物騒な武器を振り回すなど、思ってもみなかった。
すべてが王允の仕業と思い込み、恐怖で首が竦む。
王允は、その細い目を釣り上げながら郭汜を睨んだ。
「貴様も董卓の横でただただ突っ立っていただけの木偶の坊…ここで粛清する」
血のこびりついた大斧を向けられた瞬間、郭汜は叫んだ。
「じょ、冗談じゃねえええっ!」
殺されては敵わぬと、背を向けて逃げ出した。
「待たぬか!」
即座に後を追いかけんと走り出す。
一度火が着いた怒りが、王允の足を衝動的に突き動かす。
その表情は、義憤に駆られた文官というよりは獲物を狙う獣だった。
「はっ!」
突如、横から若い青年が立ち塞がった。
「む!?貴様、は」
洛陽で何度か見かけたことのある文官だった。帝と共に、先立って長安入りしていたはず。
「随分と大それたことをしましたな…この報い、いつか訪れましょう」
細身の剣を構え、怒り任せの王允を冷ややかな視線で見据える。
その小憎らしさが、更に王允を激昂させた。
「何ぃっ!」
目を血走らせながら王允は文官に打ちかかる。
「…っ」
文官の身のこなしは、王允を上回るものだった。
大斧の柄を受け止めながら剣先を滑らし、素早くいなした。
体勢を崩した王允の背中に、蹴りを放つ。
「ぐえっ!」
王允がもんどりうって倒れた。
間髪入れず、文官は背後で狼狽えている郭汜に叫ぶ。
「郭汜様、馬を用意してあります」
「あ、お前…!」
青年の顔を見て、郭汜は少し驚きつつもにやりと笑った。
文官服を着ているせいで受ける印象は違えど、確かに見覚えがある。
かつて董卓の近くにいた、馬乗りの得意な従者に違いなかった。
「ここは逃げるが上策。いずれ董卓様の仇、果たしましょう」
「感謝するぜ!」
威勢を取り戻した郭汜は、青年と共に連れ立って走り出す。
「っ、おのれ…」
闇夜の中へと紛れていく背中を、王允は忸怩たる思いで見送るしかなかった。
仕留め損ねた悔しさに、顔が歪む。
「王允様、陛下がお目覚めになられました!」
床から起き上がったところに、奥から駆けつけた文官の声がかかる。
「おお、そうか…!」
今の今まで憤怒に煮え滾っていた王允の頭が、すっと冷えた。
寝所に戻ってきたとき、帝は女官に囲まれながらぼんやりと座っていた。
「陛下!」
王允はさっと跪いた。その姿を、虚ろな目が見下ろす。
「おう、いん?」
「陛下…苦境の身にありながら何一つ尽くせなかったこの非礼、お許しくださ」
「うわぁあああああああっ!」
劈くような叫び声が上がった。王允も女官も、皆が驚き慄く。
「っ、陛下!?」
「あ、ああっ…ひぃいいっ…!」
異様な声で叫び、胸の辺りを押さえながら泣く帝を見て、王允は気づいた。
帝が気を失う前に最後に見た光景は、あまりにも。
「陛下!」
王允は咄嗟に帝を抱き寄せた。
「どうか、どうか落ち着いてください…!」
強張った小さな背中を撫でさすった。
ひぃ、ひぃと浅く、痛々しい呼吸が何度も繰り返される。
涙はとめどなく溢れ、王允の胸を濡らした。
「ひ、ひと、が…ひとが、たくさん…!」
「申し訳もござりません…なんというところをお見せしてしまったのか」
帝とはいえ、幼子だ。人の首が何人も刎ねられる様を見て平気でいられる訳がない。
己の無力さを呪いながら、王允は必死で言い聞かせる。
「もう大丈夫です、大丈夫ですよ陛下。大丈夫ですからね…」
「っ…!荀彧はっ!?」
帝はがばりと王允の胸から離れた。
意識を手放す直前、血だらけで董卓の足元に転がっていた姿が蘇る。
「ええ、荀彧殿も無事ですよ」
「荀彧に会わせてくれっ!」
無事と聞くなり、胸倉を掴む勢いで帝は王允に詰め寄った。
その剣幕には決して動じず、王允は首を横に振りながらきっぱりと言う。
「それは…できませぬ。とても今はお会いできるような姿ではありません」
「そんな、荀彧…荀彧っ…!」
帝の目に、大粒の涙が浮かんだ。
あの大怪我では、死んでいてもおかしくない。激しい不安が募る。
「大丈夫です、お命は無事です。この王子師、誓って陛下に嘘は申しません。回復次第、必ずやお引き合わせいたしましょう」
王允は、いつも以上に口調を穏やかなものへと変えて話す。
諭され、宥めすかされ、ようやく帝の呼吸が整ってきた。
「ほ、本当、だな…本当、なのだな?」
「はい。ですから陛下も、十分お休みください。荀彧殿と再びお会いするまでに、お体の調子を整えなくては」
できうる限りの、精一杯の笑顔を浮かべた。
「王允様」
そこへ丁度よく女官が白湯を運んできた。王允は椀を受け取り、帝の前に差し出す。
帝は大人しくそれに口をつけた。温かい湯の感覚は、心を解すに十分だった。
少しずつそれを飲み下していく帝の姿に、やっと胸を撫で下ろす。
『王允様、董承殿がお待ちです』
寝所の入り口の向こうから、声がかかった。
「陛下、一旦失礼いたします」
「…ああ」
白湯のお陰か、帝は幾分落ち着いた様子で頷く。
それを見届けてから、王允は一礼して足早に寝所を出ていった。
目が暗く澱んでいたことに気づく者はいなかった。
「ご命令の通り、牢獄より回収してまいりました」
玉座裏手に存在する広間まで行くと、若い武官が王允の到着を待っていた。
背後には、一人分の棺が横たわっている。
「既に、亡骸は清めております」
王允は何も答えずに、棺まで歩み寄る。
蓋を取り、中に納められた死に顔を見下ろした。
「…ご苦労だった、董承。下がれ」
「はっ」
董承と呼ばれた武官は、すぐに踵を返して広間を出ていった。
次第に足音が遠ざかっていく。
「何顒殿」
完全に足音が消えた瞬間、王允はがっくりと膝をついた。
「私は…私、はっ…」
死化粧を施された何顒の白い顔を見た瞬間、例えようもない脱力感が襲った。
自分の行いは正しいという自負があった。
若き日より宦官と戦い続け、時には獄に繋がれようと、己のやり方を貫いてここまで来たつもりだ。
玉座近くに侍る董卓を見た瞬間、心は決まっていた。必ずやこの男を排除する、と。
正攻法で屈するような男ではないと見通した上で手を尽くした。娘さえ利用して。
その結果が、これか。
娘の人生を汚し、徒に乱を招き、前途ある若者の尊厳を奪い。
友を屈辱に塗れさせて、うち二人も死に追いやり、帝の心に深い傷を負わせた。
一体、自分はどこで間違えた?
「あ、ああっ、うああああああああああ!」
誰もいない広間に、老境を前にした男の慟哭が響き渡る。
董卓の誅殺という最大目的を成し遂げた。なのにせり上がるのは、泥のような罪悪感の塊。
払った犠牲が多過ぎた。こんなはずでは、なかった。
「荀攸様?」
何度か呼びかけたものの、内側からの反応はない。
そっと扉を開けると、ある程度想像のつく光景が目に入る。
貂蝉は足音を立てぬように近づいて、二人を見下ろした。
「荀彧様…よかった」
今までに一度も見たことのない、穏やかな寝顔の荀彧がそこにいる。
薄布ではなく簡素な寝着に包まれた姿に、ようやく彼本来の清廉な美しさを見て取った。
その荀彧の足元近くで、荀攸は死んだように突っ伏していた。
顔に残された青痣は痛々しく、目の下はくっきりと隈ができている。
どんなに気を張っていたところで、彼もまた疲弊の極致にあることは理解できた。
外から、馬の嘶く声が聞こえた。
貂蝉ははっと目を見開き、そして俯く。いよいよその時が来ようとしているのだ。
「…お休みなさいませ」
荀攸にも上掛けを被せ、貂蝉は部屋を後にした。
矢傷を負った臀部には、まだ跡が残されている。
それでも赤兎馬は気力に満ちていた。とても、洛陽から長安まで一息に駆けてきたとは思えない。
水をたらふく飲めただけでも、この馬には十分な休息らしかった。
「…行くか」
早く走りたいとばかりに嘶いた相棒を見て、呂布は満足げに笑った。
張遼も頷き、立ち上がる。
「長安の東門近くに部隊を駐屯させております。では」
深々と一礼をして、張遼は先にその場を立ち去った。
「奉先様」
赤兎馬と向かい合ったその時、背後から声がかけられた。
振り向いたそこに、貂蝉が佇んでいる。
決意を秘めた面持ちは、月明かりに美しく映えた。呂布は黙って彼女からの言葉を待つ。
「申し訳ありません。私は、ここまでございます」
呂布は目を閉じ、天を仰いだ。そして静かに頷く。
「…わかった」
「奉先様。私は…っ!」
すべてを見通されていたと痛感し、思わず懺悔の思いが募る。
それは、逞しく優しい抱擁によって制された。
「言わなくていい。お前も俺も、自分の意志を遂げた。それで十分だ」
「奉先、様…」
貂蝉の瞳に、熱いものが滲み、頬を濡らしていく。
最強の武の傍らにあったからこそ、死の恐怖に呑まれることなく、今の自分がいる。
闇に舞い続けた自分にも、まだこんな感情が残されていると思い知る。
「…戦場での奉先様は、心の支えでした」
嘘偽りのない想いが、口の端から零れ落ちた。
「貂蝉…」
いつからかは気づいていた。自分の先に、別の何かを見ていると。
もしも他の男やくだらない望みだったとしたら、また受け取り方は違ったかもしれない。
ただ、少なくとも彼女はそうではないと直感が言った。
「ひとつだけ、俺から言わせてくれるか」
呂布は抱きしめる腕を緩め、今一度貂蝉と向き合った。雄々しく曇りのない眼で以て、愛した女を射抜く。
「生きろ。ただ一人のお前として」
貂蝉の目が見開かれた。その眦の涙を、呂布は指で振り払う。
廃墟の洛陽を前に泣き崩れる貂蝉を見た時、すべて悟った。
彼女が見ていたのは他でもない、この国だと。
国を憂い、身を捧ぐ。その生き様こそが彼女を美しく、そして強く、哀しい存在たらしめるのだ。
「何に縛られるでもなく、己のためにこの先を生きろ。約束だ」
董卓という軛が去った今だから、望む通りに生きてほしい。
戦を望み、その道を行くと決めた自分のように。それが、呂布の出した答えだった。
「はい…」
貂蝉は泣きながら微笑みを返した。
「さらばだ」
呂布の手が今度こそ、貂蝉から離れる。
そのまま振り返ることなく、待ってくれていた赤兎馬に跨った。
「行くぞ、赤兎っ!」
高らかに叫びながら腹を蹴る。全身に血を滾らせ、赤兎馬が勢いよく駆け出した。
修羅の風を纏った人馬が、長安の街中へ。戦場の待つ先へと消えていく。
貂蝉はいつまでも見送った。背中が見えなくなっても。
「…ありがとうございました、奉先様」
策謀の舞姫ではなく、ただ一人の女がそこにいた。
2018/09/24